2009年3月11日水曜日

提出した寸評。

シミュレーショニズム 椹木野衣
本書は1980年代に勃興し、1990年代を蹂躙し、2000年代の今なお多大な影響を与える、シミュレーショニズムに関する、1991年時点での批評である。シミュレーショニズムとはサンプリング、カットアップ、リミックスを基本とし、暴力的なまでに既存の素材を脱構築することによって表現を成立させようとする思想だ。また著者の椹木野衣はキュレーターとしても活動しており、評論家に留まらない横断的な活動をする人物と言える。この実状に対する経験を備え、なおかつ広範な教養を基礎とした批評は、まさに私の目指す一つの理想的なモデルでもある。
誤解を恐れずに言うならば、私は今までこれほど説得力のある批評を読んだことがない。それではなぜこの批評はこれほどの説得力を持ちえたのだろうか。私はその大きな要因に著者の露悪的なまでの開き直りがあるのではないかと思う。著者は導入から「恐れることはない、とにかく盗め」と熱情的に語る。この詩的なまでの表現は、書かれている内容の過激さと相まって、読者に強烈な印象を植え付ける。そして次々に展開される言葉は、決して感情的になりすぎることなく的確に状況を分析していく。さらにその言葉に対する個別具体例として、ひっきりなしに膨大な引用がなされている。そして私が最も露悪的で説得力があると思うのは、この暴力的なシミュレーショニズムという思想に対して、著者が肯定的であり続けるという姿勢である。普通、人は新しく現れた暴力的な存在に対し、否定的な姿勢をとろうとする。しかし著者は本書の中で肯定的な姿勢を崩すことは無い。それはこのシミュレーショニズムに対する絶対の確信であり、読者はその絶対的な確信の姿勢から説得力を感じるのである。

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